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エライザ法とウエスタン・ブロット法  2001.12.18 - written by ipweb analyst -


今年、日本中を騒がせた「狂牛病」。全頭検査の実施後、市場の肉は安全であるとされている。しかし、実際はどうだろう。狂牛病と診断されたウシが報道されるたび、ニュースでは大々的に取り上げられ、牛肉に対する不安から焼肉店からは客が離れ、牛肉離れは加速する一方。ある報道によると牛肉の代わりに鶏肉の需要が増えているという。 なぜ、このような事態に陥っているのか。行政の責任に負うところも大きいが、個人的には、その検査体制が一般の消費者に理解されていないことが原因と考えられる。もちろん、1. 市場に出る全てのウシを検査する。2. エライザ法、ウエスタン・ブロット法の2段階の検査を行っていることは知っている。しかし、エライザ法がどういう検査方法なのか、ウエスタン・ブロット法がなぜ2次検査で行われるのかといった点に関しては全くといっていいほど報道されていないのが現状だ。 本当に知るべき、伝えるべきは両検査方法の原理と違い、それらを組み合わせる目的ではないだろうか。今回は、各マスコミの取材、報道の在り方に疑問を呈しつつ、エライザ法とウエスタン・ブロット法の原理、それらを組み合わせる理由に関して述べたいと思う。

はじめに
=狂牛病(牛海綿状脳症、BSE:Bovine Spongiform Encephalopathy)とはどのような病気なのか?=
狂牛病 は、1986年に初めて英国で報告された牛の病気である。「プリオン」という蛋白質が異常化(変異)することで、脳の組織がスポンジ状になり、運動失調などの神経症状を起こす。潜伏期間は2〜8年で、発症後2週間から6カ月で死亡する。感染牛の脳や脊髄(せきずい)、眼球、小腸の一部などを含んだ飼料(肉骨粉)が原因で感染すると言われている。

=プリオンとは?=
私たち人間をはじめ、ウシや羊の体内には、プリオン(PrP)と呼ばれる蛋白質が多数存在する。プリオン遺伝子自体は,ほ乳類でCONSERVATIVEで,かつありふれた遺伝子だ。脳に一番多く発現しているが、他の臓器でも発現している.この遺伝子は正常な個体では少量の正常なプリオン蛋白を作っており、通常、正常なプリオン蛋白は酵素で分解されるが、異常型は酵素で分解されず、熱や薬品にも強い特徴を持つ。この異常型のプリオンが徐々脳内で蓄積され、細胞が死滅することで脳がスポンジ状になり神経障害を引き起こす。

=正常型プリオンと異常型プリオンの違い=
タンパク質はアミノ酸が長く連なった鎖のようなもので、3次元構造を持っている。この特定の立体構造をもってはじめて機能を示す。プリオンに関しても、アミノ酸が多数連なっているのに変わりはないのだが、正常型と異常型ではこの立体構造が異なり、そのため、同じアミノ酸の配列で構成されていても違いが生じる。正常型、異常型プリオンの立体構造に関しては、以下のサイトを参照していただきたい。大まかな違いを述べるとすれば、正常なプリオンは、らせん状の構造「αヘリックス構造」をいくつかもっているが、異常プリオンはこの部分が伸びきって板のような構造「βシート構造」になっており、不安定な構造なっている。

○正常プリオンと異常プリオンのモデル図
http://pubs.acs.org/hotartcl/cenear/980209/prop.html

このプリオンに関しては、まだ分かっていない部分が多く、今後の研究に期待したい。

= 異常プリオンの検出方法=
異常プリオンが蓄積することで狂牛病が発症するということは前に述べた。しかし、そのウシが狂牛病に感染しているかどうかを確認するためには狂牛病特有の症状を示すのを待つか、死んだウシの脳のプリオンを調べることでしか、判断が出来ない。初期段階、しかもまだ生きている段階で狂牛病の感染の有無を調べられる手法が開発されれば、更なる研究や治療法の確立に役立つことだろう。

=エライザ法とウエスタン・ブロット法=
ある特定の蛋白質の有無を調べる際に使われるのが、エライザ法とウエスタン・ブロット法である。エライザ法は、抗原抗体反応を利用し目的の蛋白質を検出する方法で、ウエスタン・ブロット法に関しては、電気泳動によって分子量ごとに分かれた蛋白質の中から目的のものを検出するというものだ。

=エライザ法の原理=

牛の脳をすりつぶして濃縮 正常プリオンを分解 →※異常型プリオンだけが残る
抗プリオン抗体を加える →異常型プリオンと結合
異常型プリオン―抗プリオン抗体を発色

○ エライザ法の特徴(擬陽性が検出される訳)
エライザ法では、目的蛋白に発色基質を結合させ、ある一定の発色強度を境に陽性と陰性を判別する手法だ。この場合は、異常プリオンに抗プリオン抗体を結合させ発色させるわけだが、分解されずに残った正常プリオンに結合するもの、他の蛋白質と結合するものなどが現われ、これらも発色してしまう。これが、擬陽性が出てしまう理由だ。

=ウエスタン・ブロット法の原理=
牛の脳をすりつぶして濃縮 正常プリオンを分解
電気泳動(※1)によって大きさごとに振り分ける
電気泳動の結果をシートに転写
異常型プリオンと結合して発色する試薬を添加


ウエスタン・ブロット法の特徴
ウエスタン・ブロット法では、脳に含まれているタンパク質を電気泳動にかけることで大きさ別に分類することが可能になる。プリオンの大きさは既に分かっているため、エライザ法で発色してしまった正常プリオンや他の基質と反応してしまった他の物質から異常プリオンだけを判別することが可能になる。ただ、電気泳動の結果を見るためには数時間を要するほか、一度に泳動できる検体数が限られているというデメリットが存在する。

※1: 電気泳動とは? 目的のタンパク質溶液を注入したゲルに電圧をかけると、溶液内の物質はマイナス極からプラス極へその大きさに応じて流れる。小さい分子はゲルを通り抜けやすいので早く流れるが、大きな分子は通り抜けにくいので遅く流れる。


我が国の安全確保対策の現状
日本の全頭検査のしくみ
平成13年10月18日に発表された資料によると、
(一)と畜場においては、食肉処理を行う全ての牛について、BSE迅速検査を実施し、確定診断で、BSE陽性の牛については全て焼却
(二)と畜場においては、BSE感染性がある特定危険部位である脳、脊髄、眼、回腸遠位部については、全ての牛について除去・焼却  また、
(三)農場においては、BSEが疑がわれる牛、その他中枢神経症状を呈する牛等について、BSE検査を含む病性鑑定を実施。検査結果にかかわらず、と体は全て焼却


まとめ
このように、現在、日本の狂牛病に関する各種対策は英国並み、あるいはそれ以上であり、食品を含めて,牛由来の製品の安全性は、欧州諸国以上に確保されている点は正しく評価されるべきだと考える。 ここで、確認しておきたいのは、日本から狂牛病がなくなったということでは決してないということだ。すでに狂牛病に感染しているウシがいる可能性もあるし、突然変異で現われる可能性もある。前に述べた各種対策の目的は、「異常プリオンを持った牛由来の製品を市場に出さない」ということであることを消費者をはじめ、多くの人が誤解している点を指摘しておきたい。


最後に(今後の課題点)
全頭検査の実施により、市場に出回る牛肉の安全性は確保された。しかし、これで全てが解決したとはいえない。今、最大の問題なのは、肉骨粉の処理システムだ。これまで食肉リサイクルの要として存在していた肉骨粉の部分がポッカリと空いてしまった。環境省では、ウシの肉骨粉をセメントの材料として利用するなどの代替利用案を出しているが、課題は多そうだ。新たな食肉リサイクルのシステム作りが今、求められている。



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